金型保管とは?事業者が理解しておくべき取引ルールや下請法についても紹介
金型は、さまざまな製品を製造するために欠かせないものです。金型を一度製作してしまえば、同じ形状の製品を量産できるようになり、生産工程の効率化が図れます。
モノを製造する企業にとって必要な金型ですが、保管方法に苦慮している企業が多いです。
そこで今回は、金型を所有しており保管に悩んでいる事業者の方に向けて、金型保管の特徴から事業者が知っておくべき取引ルール・下請法について紹介します。
金型の適切な管理方法についても解説していますので、ご参考にしていただければと思います。
目次[非表示]
- 1.金型とは?
- 2.金型保管の特徴
- 3.金型の保管はどうしている?
- 3.1.下請法とは?
- 3.2.金型の無償保管によって下請法違反になった事例
- 4.金型を利用する事業者が理解しておくべき取引ルール
- 4.1.型取引の類型整理をする
- 4.2.類型ごとに実施する型取引の適正化に取り組む
- 4.2.1.事前協議・書面化
- 4.2.2.型代金または型製作相当費の支払い
- 4.2.3.不要な型の廃棄の推進、型の保管費用の支払い
- 4.2.4.型の廃棄・返却、保管費用に関する「目安」
- 4.2.5.知的財産・ノウハウの保護
- 4.3.「型の取扱いに関する覚書」を活用する
- 5.金型を適切に管理するための方法
- 5.1.型管理運用マニュアルを活用する
- 5.2.自社施設や事業所内のスペース利用を検討する
- 6.まとめ:金型保管なら三菱倉庫にお任せ!
金型とは?
金型は、主に金属素材を用いてつくった型の総称です。金型に金属や樹脂、ゴムなどの材料を流し込むことで同じ形状の製品を連続して製造できるようになります。安定した精度の製品を量産できることから、多くの生産工程で用いられています。
金型は使用する材料や成形する方法によって種類が分かれています。たとえば、プラスチック材料を加工して家電・自動車・雑貨類などの部品を製造する「プラスチック用金型」、金属を上下の金型で挟み込み圧力を加えて製品の形状をつくる「プレス用金型」などがあります。金型のサイズは製造する製品によって様々な大きさがあります。
取引状況によっても異なりますが、一般的に製造を担う受注事業者が金型を保管する場合が多く、発注事業者とトラブルになる可能性もあります。
金型保管の特徴
金型保管における問題となりやすい特徴は以下の3つが挙げられます。
管理が煩雑
金型保管における特徴の1つに、管理が煩雑である点が挙げられます。金型が委託先の製造業者で保管され、そこからまた別の製造業者に貸し出す場合もあり、移動が頻繁に行われます。
金型の移動や使用履歴を管理するためには、その都度記録しておく必要があります。
適切な記録が行われていないと現状の保管先を把握できず、業務にも影響を及ぼしてしまう可能性があります。
しかしこの記録作業を紙やExcelなどの台帳で行っていた場合、作業が増えてしまい、管理も煩雑になりやすいです。
保管期間が長い
金型は部品の量産が終わっても継続して保管する必要があります。
しかし、受注事業者に保管を任せて、そのまま長期にわたって押し付けてしまう事例もあります。
また、長期保管にはさまざまなリスクが伴いますが、防錆処理もそのうちの1つです。
金属製の金型の場合、湿度の高いところに保管してしまうと錆が発生するため、防錆処理が必要となり、コストがかかります。
保管スペースが必要
金型のサイズは製造する製品によって様々な大きさがあります。
製品が増えると新しい金型も増えていくため、保管スペースも必要になります。中には数年に1回しか使用しない金型が保管スペースを占有してしまう場合もあります。
また金型を段積みにして保管すると、どこにあるのか見つかりにくく、取り出す際に挟まれ事故などを引き起こすリスクにもつながります。
金型の保管はどうしている?
金型保管は、受注事業者に任せている場合、適切に管理ができていないと下請法違反に該当する可能性があります。
ここでは、金型保管と関係する下請法と違反事例についてご紹介します。
下請法とは?
下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは、親事業者が下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まることを目的に制定された法律です。
下請法で規制される主な取引は以下の4つに分類されます。
対象となる取引 |
具体例 |
製造委託 |
自動車メーカーが部品製造に使う金型の製造を下請事業者に委託すること |
修理委託 |
顧客から依頼された商品の修理を他社に再委託すること |
情報成果物作成委託 |
ユーザーがシステム開発会社にシステム開発を依頼すること |
役務提供委託 |
運送業者が、他社から請け負った運送業務を別の運送業者に再委託すること |
参考:公正取引委員会・中小企業庁「下請代金支払遅延等防止法ガイドブック」
金型の無償保管によって下請法違反になった事例
実際に、金型の無償保管が下請法違反に該当した事例もあります。
親事業者の電機メーカーは、下請事業者に金型を貸し出し、部品の製造を委託していましたが、長期間発注がない部品の金型を無償で2年以上保管させていました。公正取引委員会からの調査を受け、電機メーカーは無償保管していた金型を廃棄し、保管・棚卸に伴った費用として複数の下請事業者に対して合計約1,000万円以上を支払っています。
中小企業庁と公正取引委員会による「平成 30 年度金型に係る取引の調査」によると、量産が終了した金型の平均保管期間は、受注事業者2,743社のうち、80%以上が4年以上、約45%が10年以上と回答しました。
受注事業者が金型の長期保管を強いられている傾向がみられます。
参考:中小企業庁・公正取引委員会「平成 30 年度金型に係る取引の調査結果」
金型を利用する事業者が理解しておくべき取引ルール
発注事業者が適切に金型管理を行うためにも、型取引のルールを理解しておくことが大切です。2020年1月に「下請中小企業振興法」における振興基準が改正され、型取引のルールが法令化されました。
ここでは、事業者が理解しておくべき取引ルールを解説します。
参考:中小企業庁「型を用いて製品を製造する全ての事業者の皆様方へ」
型取引の類型整理をする
型取引のルールの1つに類型整理があります。
まずは、自社が所有する型がどの類型に分類されるかを確認していきます。
類型 |
内容 |
---|---|
類型A |
「型のみ」又は「製品と型の双方」を取引対象(請負等)とする取引 |
類型B |
取引の対象は製品であるものの、型についても、製品に付随する取引として、発注事業者が型製作相当費の支払いや製作・保管等の事実上の指示を行う取引 |
類型C |
型そのものは取引対象とならず、かつ、発注事業者が型に関して、型製作相当費の支払いや製作・保管等の指示を全く行わず、受注事業者の判断で型管理を行う取引 |
発注事業者は、受注事業者との型を用いた取引について、自らに有利となるよう一方的に取り決めを行ってはいけません。
類型ごとに実施する型取引の適正化に取り組む
類型整理をしたら、型取引の適正化の取り組みを行います。
なお類型Cに分類される場合、受注事業の判断で型を自由に管理できます。
適正化を図るための取り組み事項は以下の通りです。
●事前協議・書面化
●型代金または型製作相当費の支払い
●不要な型の廃棄の推進、型の保管費用の支払い
●型の廃棄・返却、保管費用に関する「目安」
●知的財産・ノウハウの保護
事前協議・書面化
口頭での指示のみ、または従来の取引慣行に従って型の取引を行うと、型の所有権や保管にかかる費用負担が曖昧になってしまい、受注事業者が不利益を被ってしまう可能性もあります。
このような事態を回避するために、型取引の事前協議と必要事項の書面化が大切です。
類型ABCで共通の書面化すべき項目は以下の通りです。
●型の所有権の所在
●製品の量産期間
●型代金又は型製作相当費に関する事項(支払方法、支払期日等)
●型の保守の取扱い・費用
●型のメンテナンスの取扱い・費用
●型の更新の取扱い・費用
●型の廃棄の取扱い・費用
また、下請法適用対象取引の場合には、発注事業者は、同法で定める書面を交付する義務があるので注意が必要です。
型代金または型製作相当費の支払い
型の製作には多額の費用がかかる場合もあり、発注事業者が代金を支払わない、または支払い完了時期を無理に遅らせようとすると、受注事業者の資金繰りに影響を及ぼします。
このような事態を防ぐために、基本原則として支払い方法や期日はあらかじめ協議をして定めておくことが大切です。
なお、下請法適用対象取引の場合には、型の受領日から60日以内の期間内において、かつ、できる限り短い期間内で支払いをする義務があります。
※参照:下請法の第2条の2「下請代金の支払期日」
不要な型の廃棄の推進、型の保管費用の支払い
不要な型をいつまでも保管させる、無償で保管させるといった行為も、受注事業者が不利益を被ってしまう可能性があります。
そのため、型の所有権が発注事業者にある場合、不要と判断したらそのまま保管を受注事業者に依頼せず廃棄することが大切です。廃盤となった製品の型は受注事業者に廃棄指示を出し、廃棄にかかった費用を発注事業者が負担します。
また、型を保管にかかる費用を受注事業者に支払う必要があります。廃棄の際に部品の残置生産を指示する際は、製品の代金や保管にかかる費用も支払いの対象です。
型の廃棄・返却、保管費用に関する「目安」
型を保管するためには費用がかかりますが、生産活動に使用しない型を長期間保管することや保管料を適切に支払わない場合、受注事業者の不利益につながるため改善が必要です。
こうした事態を防ぐために、型の保管期間や保管費用の目安を定めておきます。
たとえば、量産終了から一定年数が経った場合、廃棄を前提に協議をします。一定年数の目安は以下の通りです。
産業種類 |
廃棄目安 |
自動車関連産業 |
量産終了後15年 |
産業機械関連産業 |
量産終了後10~15年 |
電機・電子・情報関連産業 |
量産終了後3年 |
知的財産・ノウハウの保護
型に関する知的財産やノウハウを守るための内容を取り決めていないと、受注事業者の型の図面やデータが流出する危険性があります。
そのため、事前に秘密保持契約も含めた型の図面・データに関する事項の書面化が大切です。もし発注事業者が金型の図面・データを必要な場合、受注事業者に対してその対価を支払う必要があります。
なお、優越的地位を利用して知的財産やノウハウを濫用してしまうと、下請法に加え独占禁止法にも違反する可能性もあります。
「型の取扱いに関する覚書」を活用する
型の製作や保管方法、廃棄まで取引全般を確認し、書面化することが重要です。書面化する際には、「型の取扱いに関する覚書」を活用するのがおすすめです。
概要は以下の通りです。
●事前協議・書面化
●型代金又は型製作相当費の支払い
●不要な型の廃棄の推進、型の保管費用の支払い
●型の廃棄・返却、保管費用に関する「目安」
●知的財産・ノウハウの保護
覚書には、上記でご紹介した適正化の取り組みに関する事項がすべて含まれています。雛形もあるため、参考にしながら作成してみてください。
ただし、雛形はあくまでも参考にするものであり、各取引形態に合わせて修正する必要があります。
参考:経済産業省「型取引の基本的な考え方・基本原則について」
金型を適切に管理するための方法
下請法などの法令に違反しないためにも、金型を適切に管理していくことが大切です。
ここでは、金型を適切に管理するための方法を解説していきます。
型管理運用マニュアルを活用する
経済産業省は、2023年2月に「型管理運用マニュアル」を作成しています。型管理運用マニュアルは、2020年版「明日から使える型管理適正化マニュアル」でも掲載されていた基本的な内容に加え、事例紹介やITツールの活用、型管理のシステム化などを含んでいます。
これから型管理に取り組む事業者だけでなく、これまで型管理に取り組んできた事業者にとっても参考となる内容となっています。
参考:経済産業省「型管理運用マニュアル」
本マニュアルは型管理の取組手順を「ルール化」「データ化」「共有化」の順にまとめています。
とくに注目すべき部分は、データ化や情報管理です。型管理台帳をデータ化させることで、廃棄・返却を申請する際にも必要なデータをすぐに抽出できるようになります。
また、データ化による情報管理を実施することで、型管理に費やしてきた時間の大幅短縮や属人化の解消、適正なコストの算出なども可能です。型管理運用マニュアルを参考に、データ化や情報管理の実施を検討してみてください。
自社施設や事業所内のスペース利用を検討する
量産終了後も金型を必要とする場合、どうしても保管スペースの確保が必要となります。受注事業者に適切に保管費用を支払うことでも解決できますが、スペースが確保しきれない場合もあります。
このような場合には、自社施設や事業所内のスペースに保管できないか検討してみることが大切です。もし保管場所が見つからなかった場合は、外部倉庫などを借りることも検討してみてください。
まとめ:金型保管なら三菱倉庫にお任せ!
これまで、金型保管は受注事業者が不利益を被るケースが多くみられてきましたが、現在は取引ルールや型管理運用マニュアルなどによって改善されてきています。
しかし、「管理が煩雑」「保管期間が長い」「保管スペースが必要」といった課題があり、発注事業者や受注事業者だけでは適切な管理が難しい場合もあります。
そのようなときは三菱倉庫の活用もご検討ください。
三菱倉庫では、倉庫保管、国内輸送、フォワーディング、物流DX、産業別に特化した物流サービスを提供しています。
金型保管に困ったら、ぜひ一度、三菱倉庫にご相談ください。